「DX(デジタルトランスフォーメーション)」「デジタルシフト」という言葉を目にする機会が増えてきました。書籍やニュースタイトルはもちろん、セミナーや講演のテーマとしてもひんぱんに見かけることでしょう。 あやとりでは、すでに2018年末の時点で「DXって何?」「次のビジネスの重要キーワードになるぞ」と注目し、2019年1月に「デジタルトランスフォーメーションとは何か?」というコラムを書いていました。
2020年のいま、DXやデジタルシフトをテーマとするものをいろいろ眺めていると、言葉の使い分けがされているのかされていないのか、よくわからなくなってきました。そこで、2020年でのDXの進捗状況をチェックしつつ、今一度、DXとデジタルシフトの違いを整理してみたいと思います。
DXのいま
2018年に経済産業省が「DX推進ガイドライン」を公開
経済産業省が、デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)を取りまとめましたところから大きく動き始めます。 DX推進ガイドラインでは、DXを次のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。」
(出所:『DX推進ガイドライン』、経済産業省、2018年)
2019年に経済産業省が「DX推進指標」を公開
さらに、2019年には「DX推進指標」を公開し、各企業がDXの進捗状況をチェックすることができ、DX推進の度合いはその成熟度によって6つに分類されます。
成熟度レベルの基本的考え方
レベル0 『未着手』 |
経営者は無関心か、関心があっても具体的な取組に至っていない |
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レベル1 『一部での散発的実施』 |
全社戦略が明確でない中、部門単位での試行・実施にとどまっている (例)PoCの実施において、トップの号令があったとしても、全社的な仕組みがない場合は、ただ単に失敗を繰り返すだけになってしまい、失敗から学ぶことができなくなる。 |
レベル2 『一部での戦略的実施』 |
全社戦略に基づく一部の部門での推進 |
レベル3 『全社戦略に基づく部門横断的推進』 |
全社戦略に基づく部門横断的推進 全社的な取組となっていることが望ましいが、必ずしも全社で画一的な仕組みとすることを指しているわけではなく、仕組みが明確化され部門横断的に実践されていることを指す。 |
レベル4 『全社戦略に基づく持続的実施』 |
定量的な指標などによる持続的な実施 持続的な実施には、同じ組織、やり方を定着させていくということ以外に、判断が誤っていた場合に積極的に組織、やり方を変えることで、継続的に改善していくということも含まれる。 |
レベル5 『グローバル市場におけるデジタル企業』 |
デジタル企業として、グローバル競争を勝ち抜くことのできるレベル レベル4における特性を満たした上で、グローバル市場でも存在感を発揮し、競争上の優位性を確立している。 |
(出所:『「DX 推進指標」とそのガイダンス』、経済産業省、2019年)
2020年8月経済産業省と東京証券取引所が「DX銘柄」を選定
また、2020年8月には、経済産業省は東京証券取引所と共同で、DXを積極的に推進している企業として「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」を選定し、「DX銘柄2020」選定企業35社(出所:『「DX銘柄2020」「DX注目企業2020」を選定しました』、経済産業省、2020年)と「DX注目企業2020」21社(出所:『「DX銘柄」35社と「DX注目企業」21社を発表、グランプリはコマツとトラ』、MONOist、2020年)を発表しています。
DXという用語が世に出始めたのはいつから?
世界に目を向けると、DXという用語の初出は2004年
DXという用語の初出は、2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授の論文です。
彼はDXを次のように定義しています。
「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」
(出所:『 Information Technology and The Good Life』、エリック・ストルターマン、2004年)
日本国内でキーワードが出始めたのは2015年あたりから
日本国内では、2015年あたりから、経済産業省が中心となってDXを重要キーワードとして掲げ、デジタル技術によるビジネスモデルの変革や経営の改革を企業に推し進めてきました。
2020年のいまは、「DX推進指標」や「DX銘柄」といった、具体的に企業のモチベーションとなるような、見える化できるものが登場し、コロナ禍におけるテレワークの普及もあいまって一気にDXという旗印が浸透してきたように感じます。
DXは、経済活動を中核としつつも、社会全体をデジタル技術で変えようという大きな目標のような位置づけで語られることが多いようです。
デジタルシフトのいま
それに対して、デジタルシフトという言葉はどの範囲を示し、どういう場面で使われているのでしょうか?
デジタルシフトとは、
- 「デジタル化が進むグローバル社会においてあらゆる企業活動(経営、マーケティング、人材採用・教育、生産活動、財務活動など。およびビジネスモデルそのもの)において本質的なデジタル対応をすること」(出所:『デジタルシフトとは?言葉の意味から最新の調査結果や最先端事例、参考書籍までを紹介』、デジタルシフトタイムズ、2019年)
- 「企業と消費者が時間や場所にとらわれず、双方向にコミュニケーションを取れる環境をデジタル技術によって構築すること」(出所:『企業が取り組むべき内容を紹介!』、Kaizen Platform 公式note、2020年)
などと定義されています。
市場環境や顧客ニーズの変化にともなうデジタル化を中核に、「個々の企業活動の範囲内にあるもの」をデジタルシフトと捉えているようです。
DXとデジタルシフトの違いとは?
このように、DXとデジタルシフト、それぞれについて定義を詳しく確認してみると、意味しているところの違いが見えてきます。
DXとは「経済活動のみならず、個人の生活や社会構造にまで影響が及ぶ」ものであり、影響は広範囲にわたるとされています。一方で、デジタルシフトはあくまでもアナログだった業務やサービスをデジタルを取り入れることまでで留まっています。手段としてのデジタル化は共通しているものの、DXは広義、デジタルシフトは狭義と使い分けされているのです。
DX(デジタルトランスフォーメーション) | 広義のデジタル化。 単なるアナログのデジタル化にとどまらず、ビジネスモデルの変革や社会の変革にいたるインパクトをもたらすもの。 |
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デジタルシフト | 狭義のデジタル化。 アナログだった業務やサービスにデジタルを取り入れることで、自社の業務やサービスのQDCを向上すること。 |
しかし、実際はごちゃまぜ。なんでもかんでもデジタル化されれば、DXまたはデジタルシフトといわれています。 皆さまの会社でも「DX」と「デジタルシフト」の定義や区別やあいまいなまま、使っている人も多いのではないでしょうか。
デジタルシフトは企業の必須項目
経営者のデジタルシフト意識についての調査結果によると「デジタルシフトの意識が低い経営者の元で働きたいと思うか」という問いに対し、「働きたいと思わない」と回答している社員が55.5%になることがわかりました。この調査は2019年に実施されたものですので、コロナ禍を経験したいま、その数値はあがっているのではないかと思います。(出所:『企業のデジタルシフトに関する調査』、オプトホールディング、2019年)
一方、同調査で、「ご自身の企業の経営において、最近注視していることは何ですか」という問いに対して、1位は「業務効率の向上」(59.7%)であるにもかかわらず、「デジタルシフト」に注視している企業は10.7%で最も回答が少ない結果となっています。
コロナ禍による経済活動の停滞で、企業の体力が奪われているかと思いますが、DX、デジタルシフトへ舵を切る分岐点にあることは間違いないようです。
あやとりのスタンス
企業の「デジタル成熟度」にあわせて、デジタルシフトとDXをシームレスなものとして整理
あやとりでは、「デジタル成熟度」にあわせて、デジタルシフトとDXをシームレスなものとして整理しています。
図のように整理することによって、自社のデジタル化がどの段階にあるのか、どこを目指していくのかがよくわかるのではないでしょうか。「DXの実現」と経営者が号令をかけても、どこに向かっていいのかわからず、何も成果をあげられないのは目に見えています。
マーケティングと営業の領域を「デジタルシフト」→「DX」と発展させていく第一歩として推進
現場の声としては、上からの号令で自社もDXやらデジタルシフトやら取り組めと言われても、いったいどこから手を付けていいのかわからない、という話をよく聞きます。あやとりとしては、営業領域やマーケティング領域のデジタルシフトが、DXの第一歩にちょうど良いというお話をさせていただいています。その理由は8つあります。
ウェブや営業の活動がDXへの第一歩にちょうど良い8つの理由
- 顧客中心の活動であるため、顧客接点となるウェブや営業は課題が見えやすい(デザイン思考)
- 市場や顧客からの反応を直ぐに得られる(リーンスタートアップ)
- あらゆる部門の活動とつながっているため、各部門を巻き込める(クロスファンクショナル)
- 目指すべき方向性をウェブで具体的に表現できる(DX戦略のアウトプット先)
- 5年先を見据えて戦略を作らなければならない(長期ビジョンの反映)
- 顧客データで集められ、効果検証と対策実行ができる(データ活用)
- 取り組みをしている本人たちにとって、わかりやすい(組織変革)
- 単なるデジタル化止まりにならない(デジタル化の取り組みをきっかけにDXのための取り組みにつながる)
ウェブマーケティングや営業マーケのデジタルシフトは、顧客と直接的なコミュニケーションが得られる部門であるため、デジタル化の効果と反応がダイレクトに実感でき、かつ企業の実績も目に見えるかたちでアウトプットされます。長期的には、デジタルマーケティングによって、環境変化に適応してつねに変わり続けられる組織に変わるノウハウと人材をはぐくむ機会となります。
アナログな現場をデジタル化し、業務効率をあげることだけが、DXやデジタルシフトの最終目標ではありません。デジタルシフトを意識した経営者、企業が優秀な人材を集めることもわかってきました。業務効率化を果たした先にあるものまで見据えたツールとして、自社のDX、デジタルシフトを考えてみませんか。