不確実な時代におけるリサーチのやり方と必要性

投稿日: | 投稿者:ayatori

この連載コラム(不確実な時代のマネジメント)では、不確実な時代における事業創造のマインドセットと事業を創る際の頭の使い方をお伝えしてきました。

今回は、そのマインドセットと頭の使い方を活用して、事業を創る際に欠かすことができないリサーチについて紹介します。

1.「リサーチ」と「情報収集」の違い

何かのテーマについてのリサーチを依頼したとき、成果としてインターネットで検索した結果がそのまま送られてくることがあって驚くことがあります。そこまでひどくなくても、検索結果からいくつかのページをみつくろって、そのURLと共に「このような状況です」と連絡がきたこともありました(これは、私がクラウドソーシングサイトを使ってリサーチを依頼したときの実話です)。

インターネットが一般的になってから、静的なウェブサイトにはじまり、インタラクティブなコンテンツも増え、音声や動画の情報も増えてきました。

インターネット上のデータ量をどう見積もるかについては、さまざまな見方があります。
例えばIDCが2018年11月に発表したホワイトペーパー(英語)では、世界におけるデジタルデータの量は2018年には33ゼタバイトにまで増え、2025年には175ゼタバイトにまで増えるといわれています。
首相官邸の日本経済再生本部で開催されている『未来投資会議』の第23回の配布資料「資料1 デジタル市場のルール整備に関する参考資料」では、このIDCデータを引用し、2018年のデータ量をわれわれになじみがある「ギガバイト」を使い、33兆ギガバイトと紹介しています。

これだけのデジタルデータがあふれている世の中では、検索サイトでキーワードを入れれば、ほとんどのことを調べることができます。このような環境では、「リサーチをする=インターネットで検索をする」と理解してしまっている人がいるのも無理はありません。

インターネットで検索して、その結果を整理したものは「リサーチ」ではなく「情報収集」です。「情報収集」した結果を解釈し、意思決定に活用できるように整理することが「リサーチ」なのです。

例えば、自社がAI(人工知能)を活用した新しい事業を展開したいと考えたとします。AIに関するさまざまな情報を検索した結果をまとめただけでは、いかにきれいに整理されていたとしても、それは情報収集でしかありません。

検索した結果を踏まえて、「自社はAIを活用した分野に参入すべきか?」「参入するなら、どのような分野が良いのか?どのようなビジネスモデルが良いのか?」というようなことを考える材料を導き出すのがリサーチなのです。

2.リサーチの手順から考える「目的」確認の重要性

ここで「なぜリサーチをするのか?」という目的に立ち返ってみましょう。特に事業を創るための取り組みの一環としておこなうリサーチは、事業における意思決定をする材料を得るためのものです。
一般的なリサーチのステップは、次のようになります。

これまでの流れからもわかるように、特に重要なのは【ステップ1:準備】です。

例えばAIについてリサーチするといっても、新しい事業を検討するためにリサーチする場合と、自社の既存のAI製品に対して新たなマーケティング施策を検討するためにリサーチする場合とでは、収集しなければいけない情報は変わってきます。
そのため、リサーチを始める前に、まず「このリサーチの結果をどのように活用するのか?」を確認し、リサーチをする目的を明確にすることが大切です。

できれば目的だけではなく、「誰が活用するのか?」もあわせて確認しておくと良いでしょう。そうすることで、どのレベルのリサーチをすれば良いのかを把握できます。

最前線で事業開発に携わっているチーム向けのリサーチであれば、基本的な情報は省き、専門的用語を多用していても支障はありません。
一方、ユーザーなどに公表するためのリサーチであれば、誰が読むかは事前に想定できないので、基本的な情報も盛り込みつつ、用語の解説を付けるなどの工夫が必要になるでしょう。

3.不確実な時代におけるリサーチの意味

コラム「不確実性とウェブマネジメント」では、いまは「不確実な時代」だとお伝えしました。特に「顧客」と「環境」は不確実なものであり、完全に理解することはできないと紹介しました。
そうだとすれば、このような時代にリサーチは必要ないと思う人もいるかもしれません。

しかし、不確実な時代だからといって、何の前提知識もないまま闇雲に事業開発の取り組みを進めていくことは無謀です。事業を創っていくことはギャンブルではありません。

不確実な時代にリサーチをする意味は、「何が確実なのか」を確認することです。

リサーチをおこなうことで、事業を取り巻く環境のうち今後も確実だと思えることを確認する。そうすることで「これ以外は不確実なことだ」と確信することができるのです。

そのような確信を踏まえ、『顧客を「わかる」ための頭の使い方』『顧客のニーズを満たす自社の強み、経営資源の見極め』で紹介した考え方を使って、不確実性を減らしていくことが、成功する事業を創造する確率を高めることにつながるのです。

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