長いことウェブサイト制作の仕事をしていると、クライアント様からさまざまなリクエストを受けることがあります。ずいぶん前のことですが、こんな依頼を受けたことを思い出しました (「あやとり」のお客さまではありませんが...)。意外と、今でも有り得る話なのではないかな、と思いましたので、ケーススタディとして、ご紹介したいと思います。
それは:
イベントを開催するので、自社サイトにイベント告知のページを作りたい。ポスターを作ったので、告知ページは、そのポスターとまったく同一にしたい (ポスターの画像ファイルを全面的に貼り付ける形にしたい)。
…というものです。
クライアント様の意図
クライアント様企業では、このイベントにあわせて、立派なポスターを制作しました。クリエイティブがとても美しく、「どんな層をターゲットにしたどんなイベントか」が視覚的にイメージしやすいものでした。もちろん、イベント名や、日時、場所なども、そのポスターには盛り込まれていて、言わば「必要な情報はすべて盛り込まれている状態」です。
クライアント様自身、このポスターをとても気に入っていたので、これをそのまま、ウェブページに載せたい、と考えたのでした。リアルワールド (ネットではなく実社会) で展開しているポスターのイメージを、そのままウェブでも用いることで、一貫したイメージ訴求ができる、と考えてのことです。
画像ファイルを全面的に貼り付けることで生じる問題点
美しいクリエイティブによって、ユーザーのエモーションを喚起することは大事です。また、リアルワールドで展開しているポスターをそのままウェブページに掲載することで、一貫したイメージ訴求をすることができる、という期待もわかります。今回のケースでは、ポスターの中に「必要な情報 (イベント名や、日時、場所など) はすべて盛り込まれている状態」なので、一見、何ら問題ないようにも見えます。
しかし、ポスターの画像ファイルを全面的に貼り付ける形だと、以下の問題があります。
- ポスターとウェブサイトとではデザインの前提が異なる
- 肝心な情報が画像内にしか存在しない
まず、「ポスターとウェブサイトとではデザインの前提が異なる」ですが、一般的にポスターのデザイン (レイアウト) は、表示サイズ固定の媒体 (紙) に印刷して、たくさんの人の目を惹くよう掲示する、という前提に対して最適化されています。これに対してウェブサイトは、画面表示サイズがユーザーによって異なり (PC、タブレット、スマートフォン…)、また閲覧行動も基本的にパーソナルなので、そういった前提の中で、「目を惹くこと」よりも「情報をスムーズに得られること」が重視されます。
次に、「肝心な情報が画像内にしか存在しない」ですが、これはつまり、目の見える人間にしか理解できない、ということを意味します。「目が見える人間に理解できれば十分。何が悪い?」と思われるかもしれませんが、ウェブにおいては、目が見える人間以外にも、コンテンツの内容を理解してもらう必要があります。たとえば、検索エンジンでイベントに関連するキーワードを入れて検索したら、イベント告知ページが検索結果ページにしっかり表示されて欲しいものです (そうすることで、イベント告知ページへの来訪を促進できます)。そうするためには、人間だけでなく、テクノロジー (検索エンジンのプログラム) が自動的にコンテンツ内容を理解できる仕組みが必要になるのです。
ウェブサイトのコンテンツは HTML で構造的にマークアップする
ユーザーによって異なる画面表示サイズでも「肝心な情報を得られる」ようにデザインすること、テクノロジー (検索エンジンのプログラム) が自動的にコンテンツ内容を理解できるようにすること、このふたつを実現するには、ウェブサイトのコンテンツは HTML で構造的にマークアップすることです。ポスターの画像ファイルを全面的に貼り付けるだけのほうが作業としては楽なのですが、多少手間でも、ポスターの構成要素を構造的に分解し (見出し、強調箇所、イメージ訴求のための挿絵画像、箇条書き、表、など…)、各々の構成要素を、意味的にマークアップするのです。
これによって、「ウェブページを作ったけど誰も気づいてくれない」「ウェブページに来訪してもらえたけど情報を探しだせずに結局イベントに来てもらえない」といったつまらない「機会損失」を防ぐことが期待できます。また、コンテンツを HTML で構造的にマークアップすることによって、障がい者がウェブ閲覧時に使用する支援技術 (ページの内容を音声読み上げしてくれる「スクリーンリーダー」など) でも利用可能になるので、そのような人たちにも正しく情報を伝えることができます (上記で「目が見える人間」と表現しましたが、みなさんの顧客や関係者の中にも加齢や障がいなどの理由により「目が見えない/目が見えにくい人」もいるのではないでしょうか…?)。
コンテンツは「作ればよい」というものではありません。作ったコンテンツをどう露出し、見付け出してもらい、利用してもらうか...まで含めて考える必要があります。それもさまざまな端末に対して、またさまざまなユーザーに対して。そのために、ウェブサイトのコンテンツは HTML で作ること。ぜひこれを意識したいものです。
著作権 (二次利用の権利) にも注意!
ポスターの画像をウェブページに貼り付ける際、もうひとつ注意しなければならないのは、ポスター (およびポスターに含まれる素材) の著作権です。人物の写真が含まれる場合は、肖像権にも気をつける必要があります。これらの権利について、もともとの制作物 (つまりポスター) での使用許諾を受けていても、ウェブページにも使用する (つまり二次利用する) ことの許諾は得ていない...というケースがままあります。今回のコラムの前提として、こういった権利関係をきちんとクリアしておくことは、言うまでもありません。