『小説でわかる名著「経営者の条件」人生を変えるドラッカー 自分をマネジメントする究極の方法』の中で、印象的な場面があります。あるタウン誌の優秀な法人営業担当者が突然、仕事へのモチベーションをなくしてしまいます。いつも営業成績トップだった彼が目標未達。心配した同僚が声をかけると、彼は「お客さんのことが、数字にしか見えない」と言いました。翌日から彼は会社に来なくなり、ついには退社してしまうのです。数字を追い続けた彼に、一体何が起こったのでしょう。
1. 企業の目的とは何か?
会社は何のために存在するのでしょうか。「企業の目的」は学問分野でも中心となるテーマです。
そもそも会社の使命は利益をあげることで、いかに多くのお客さまに商品やサービスを購入してもらい、株主には高い配当を、従業員には給与や待遇を厚くしていくことが目的だとすれば、それを達成するために「お客さんが数字に見える」ことは当然のことでしょう。
「利益を伴わない(求めない)仕事はボランティア」「利益を出し、そこから税金を納めることで最低限の社会貢献をおこなう」などの意見もあります。
2. 日本の企業の65%は赤字!
平成27年度国税庁の調査によると、法人数263万436社のうち利益計上法人(黒字企業)が93万9,577社 、欠損法人(赤字企業) が169万859社 で 、欠損法人の割合は64.3%となっています。日本の企業の約65%は赤字で、利益を出し国に納税している法人は35%ほどでした。
つまり、日本企業の実態は、利益が伴わないために税金を納めることができず、最低限の社会貢献すらできていない企業が65%もあることになってしまいます。
利益を出すことを企業の存在目的だとするならば、なぜ利益を伴わない企業が事業を続けるのでしょうか?赤字企業が事業をやめれば黒字企業だけが残り、利益が出ている企業だけが存在することになるはずです。
本当に「利益の追求」が、企業の目的なのでしょうか。
3. 利益は目的ではないし、動機でもない
ドラッカーは、「利益は目的ではないし、動機でもない」といいます。
利益とは、企業が事業を継続・発展させていくための条件である。明日さらに優れた事業を行なうためのコスト、それが利益である
すでに起こった未来 変化を読む眼 ダイヤモンド社、1994年
この話をすると「経営というのはキレイごとではない」「ビジネスがわかっていない」と言われるのですが、企業は利益追求のために社会に存在するのではなく、企業が生み出す財やサービスで顧客を満足させ続けることによって、企業自体が継続し、発展することを目的とするのです。
そして、顧客が満足し、財やサービスに対して支払い続ける対価こそが「利益」なのです。つまり、利益は目的や動機ではなく結果であり、顧客満足の「尺度」であるとドラッカーは位置づけます。
4. 最小限度の利益であれば目的を設定できる
ドラッカー理論を「利益」というキーワードで再構築した本『ドラッカーの黒字戦略』(藤屋伸二、CCCメディアハウス、2014年)では、最小限度の利益の考え方は、「根拠のある具体的な数値で示せる」と指摘します。
とにかく利益をあげることが目的となる「利益の最大化」のもとでは、去年の数字より今年、昨月の数字より今月、昨日の数字より今日が上回っていればよい、ということになります。
「最小限度の利益」とは、自社の理想像を描き、それに近づくためのプロセスにかかるすべてに必要な費用であり、利益はドラッカーのいう未来費用となるのです。
マーケティング、イノベーション、商品開発、市場開拓、人材の採用や教育訓練、社員への報酬、将来の不測の事態への備え、社会貢献、施設や設備、税金…列挙すればきりがなく、すべてにおいて資金が必要になることがわかります。このための費用をまかない、企業が事業を維持・発展させていくために重要なものが利益です。
利益の最大化が目的では、近視眼的経営に陥り、企業を維持存続することができないでしょう。従業員が「お客さんのことが、数字にしか見えない」と言うようでは、人間として心が疲弊してしまいます。企業という、社会に必要不可欠な存在を通して、社会に貢献していくこともできません。
貴社の理想像、目的、組織のメンバーとして何をすればいいのか…。この年末年始にじっくり考えてみませんか。