フィリップ・コトラーも日本のマーケティングを憂いている
1. 日本人はマーケティングを誤解している
今回のコラムの大テーマは「マーケティングって何?」なのですが、この「マーケティング」、大いに誤解されています。
- マーケティングって、市場調査やリサーチのことだよね
- マーケティングって、プロモーションして、営業することでしょ
- マーケティングって、買い物した履歴が企業にデータであって、それを使って売り込みすることじゃないの
- マーケティング部に所属しているけど、マーケティングってよくわからないし、周りに教えてくれる人もいない
などなど、こんな調子です。
実は、マーケティングの定義を定めようとしている組織や人物がいます。最も権威があるのはAMA(American Marketing Association - 全米マーケティング協会)で、日本にもJMA(Japan Marketing Association - 日本マーケティング協会)という組織があります。人物では、マネジメントを発明したといわれるP.ドラッカーやマーケティングのグル(権威)P.コトラーなどが、マーケティング理論の創成期からその定義についての提言を続けています。
マーケティングとは、顧客、依頼人、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動であり、一連の制度、そしてプロセスである
AMAの2007年のマーケティング定義(2017年8月時点最新)
※AMAは時代によって定義を変更します
やや難解に感じられたかもしれませんが、この定義には市場調査やリサーチ、プロモーションや営業、顧客購買データの収集といった言葉は含まれておらず、ましてや、マーケティング部門の担当業務にすぎないとも書かれていないことはわかるかと思います。
そう、「マーケティング」とは、ビジネスをしているうえでよく耳にする、自身でもよく口にする言葉でありながら、その本質を理解している人が少ない誤解されたキーワードなのです。
2. 日本企業こそマーケティングが必要なのに
最近のビジネス書でよく目にするのが「日本の企業はマーケティングができていない。だから競争に負けるのだ」というものです。
例えば、USJをV字回復させた森岡氏は、「日本企業は長期にわたって技術志向に偏りすぎ、マーケティングをちゃんとやってこなかったツケが回ってきた」と手厳しいです。
ネスレ日本の高岡氏は、「多くの日本企業は、いまだに品質さえ良ければ売れると信じている」と、従来型のビジネスモデルから脱却できない問題点を喝破しています。
そして、コトラーは、「日本企業はマーケティングが得意ではない」とはっきり言い、日本企業を模倣したライバル企業たちが優れたマーケティング力によって、新しい価値の伝達に成功し、日本との差別化をはかったと指摘しています。
なぜ日本企業はマーケティングに弱いのか?その要因の1つとして、経営層が技術部門出身者に多く、マーケティング部門の出身者が皆無であることもあげられます。この状況を「マーケティングの貧困」という言葉で表現する研究者もいます。
3. マーケティングを理解できている企業は少ない
マーケティングの世界で古くから使われている格言に、「ドリルを買いに来た人が欲しいのはドリルではなく穴である」「口紅を買う女性は、唇に塗る色を買っているのではない」があります。
お客様が本当に欲しいものは、「商品・サービス」そのものではなく、商品を使うことによって起こる「効用」、つまり「価値」であることをこれらの格言は示唆しています。この考え方に、上述した「価値のある提供物を創造・伝達・配達・交換するための活動」というAMAのマーケティングの定義をあわせれば、するべきことは見えてくると思います。
お客様が求める「価値」をとことん追求し、商品・サービスとしてカタチにして、キチンとお客様へ伝え、届ける。できている企業はどれくらいあるのでしょうか。
目まぐるしく変化していく外部環境に対応し、顧客満足を提供し続けるためには、ドラッカーが言うところの「外部からの視点」に立つことがかかせないのです。
4. 「ウェブ」+「マーケティング」=「ウェブマーケティング」だけど、表面だけまねても意味がない
ここまでマーケティングとは何かを論じてきました。では、「ウェブマーケティング」とは何でしょうか?
ウェブマーケティングを「アクセス、問い合わせ、成約(注文)までの一連の流れ」「サイト分析、SEO、リスティング広告、ディスプレイ広告、SNSの広告などのこと」などと定義することは妥当でしょうか?
マーケティングの本質を理解したうえで、改めて「ウェブマーケティングとは何か?」を考えると、ウェブサイトの役割やウェブマーケティングの本質も理解できるのではないでしょうか。
特に「価値の伝達」「価値を提供するためのプロセス」などは、ウェブサイトが最も得意とするところです。
さらに、ウェブサイトを活用したマーケティングを積極的に取り入れるのであるのならば、今までとは違う「外部の視点」から自社の商品・サービスがどんな価値をお客様に提供しているのかを根本から見直し、「一連の制度、プロセス」にしていくこととなります。その道のりは、企業活動全体の流れをひっくり返し、マーケティングに立脚した経営戦略を再構築する一大プロジェクトになることでしょう。
「売上をつくるためにウェブサイトのアクセスを増やすこと」といった表面的なウェブマーケティングでは、時間とコストと人材をいたずらに費やすだけになってしまいます。