「不確実な時代」と言われています。さまざまな機会にあらゆるメディアで言われているので、誰もが理解していることかもしれません。しかし、「不確実な時代」だと理解していることと、それにどう対応すれば良いのかを理解していることには大きな差があります。
今回のコラムでは、言葉の上で「不確実な時代」だと理解している状態から一歩思考を進めて、不確実な時代における事業創造のマインドセットをあきらかにし、経営視点から見たウェブの活用について考えていきたいと思います。
1.事業創造における不確実性とは
「不確実」とは、文字どおり確実ではないことを意味します。新明解国語辞典(第七版)によると、「不確実」とは「その事について、確実であると判断することが出来ない様子だ。」と定義されています。では、事業創造において、特に注視しなくてはいけない不確実なものとは何でしょうか?それは「顧客」と「環境」です。
「顧客」とは、企業にとっての利益の源泉でありながら、彼らがどこにいて、何を求めているのかは不確実であり、完全に理解することはできません。
同じように企業を取り巻く「環境」も不確実です。PEST分析などをとおして、政治や経済、社会、技術などの環境要因を分析し、それが今後どうなっていくかの予測を立てている企業もあるでしょう。時にはそれがあたることもあるかもしれませんが、やはり、すべてを完全に理解することはむずかしそうです。
そして、この「顧客」と「環境」という不確実なものがあるからこそ、私たちは企業のあらゆる活動において、想定していなかった出来事(例えば「せっかく作った新商品が顧客のニーズにまったく合っていなかった」とか「想定していなかった競合企業が出てきてしまった」など)に遭遇し、思い描いていたような事業創造ができなくなってしまうのです。
2.不確実性に対処する経営理論・経営手法
このように考えると、この不確実な「顧客」と「環境」を完全に理解することはできないまでも、それらの不確実性を下げることが、事業を創造する原動力になることに気づくはずです。このような観点からこれまでに考えられてきた経営理論や経営手法を見てみると、「顧客」や「環境」の不確実性を減らすために考えられた理論や手法が多いことに気づきます。
例えば、「顧客」についての不確実性を減らすためには、デザイン思考などの手法がよく知られています。このような手法は、「顧客」についての不確実なこと、つまり「顧客が何を必要としているのかわからない」という状態から「わからないこと」を可能な限り減らしていくことを目指しています。
そのため、まずは製品やサービスを買い、利用する「顧客」のニーズやニーズの元となっている困り事は、製品やサービスを提供する企業にはわからないという前提に立ちます。その上で、顧客だと想定される人を観察し、彼らが抱えている困り事などの仮説を立てます。その後、この仮説に沿った製品やサービスを開発していくのです。
一方、企業を取り巻く「環境」についての不確実性を減らすためには、シナリオプランニングなどの手法が知られています。このような手法は、「環境」についての不確実なこと、つまり「自社を取り巻く外部の環境が今後どう変化していくのかわからない」という状態から「わからないこと」を可能な限り減らしていくことを目指しています。
そのため、まずは企業を取り巻く「環境」、特に一企業ではコントロールができない「環境」が今後どのように変化するかは、自社にはわからないという前提に立ちます。その上で、自社を取り巻く環境を特定し、その長期的な変化の可能性を踏まえ、起こり得る未来を創造します。その後、そのような未来に対する自社の対応策を検討していくのです。
3.不確実な時代における事業創造のマインドセット
このように見てみると、不確実な時代において事業創造をする場合、「わからないから始める」というマインドセットをつねに持つことが重要だということに気づきます。
知識や経験が増えてくると、私たちはついつい、「わかっているから始める」罠に陥ってしまいます。しかし、時代はつねに動いており、そのような知識や経験は容易に陳腐化してしまいます。そのため、どんなに知識も経験も豊富であったとしても、この不確実な時代においては、「顧客」と「環境」に対して、「わからないから始める」というマインドセットを持つことを忘れてはいけません。
そして、この時代にもうひとつ重要なのが「繰り返す」というマインドセットです。日本語にしてしまうと当たり前のようなことですが、このマインドセットを元にしているのがPDCAやアジャイル開発などの考え方です。これらの考え方に共通しているのは「繰り返す」こと、それも「何度も、高速で繰り返す」ことです。
先ほど紹介したデザイン思考やシナリオプランニングを経て生み出された事業案は、最初のプロセスを実行して得られた仮説でしかありません。不確実性という観点から見ると、仮説を得たということは、不確実なことが減ったととらえることができます。
しかし、一度のプロセスで良い仮説が得られる、言い換えれば不確実なことを大きく減らすことはできません。そこで、最初のプロセスで得た仮説を「顧客」や「環境」の変化と照らし合わせ、検証して、仮説を練り直すことを「何度も、高速で繰り返す」ことで、仮説をより良くしていく、言い換えれば不確実なことをどんどん減らしていくことに取り組まなければいけないのです。
4.不確実な時代におけるマインドセットとウェブマネジメント
ここまで見てきたように、不確実な時代においては「わからないことから始める」ことと「何度も、高速で繰り返す」というマインドセットをもって事業創造を進めていくことが大切です。そして、これらのマインドセットをもって進める事業創造において、ウェブは非常に重要な役割を果たしています。全社的な戦略にもとづき、新たに創造された事業案は、通常、「顧客」や「環境」についての仮説検証を「何度も、高速で繰り返す」ことを経て初めて実行されます。
しかし、いざその事業案を実行していくフェーズに入ると、仮説検証フェーズでは得られなかったリアルな「顧客」を想像するためのデータを入手したり、「環境」から受ける影響を理解したりすることができるようになります。このなかでも、特に「顧客」を想像するための重要なデータソースがウェブです。ウェブからはたくさんのデータを入手することができます。しかし、どんなに高度な解析手法を使ったとしても、それを単なるデータとして扱っていては宝の持ち腐れです。
そのようなデータを活用するためには、事業の仮説検証という大きな文脈のなかにウェブを位置づけ、「わからないことから始める」というマインドセットでデータを分析します。その過程で、他の経営データやリアルな顧客の声などの定性データと組み合わせることも必要になってくるでしょう。こうすることで、単なるデータだと思っていたものが、事業創造の仮説を検証するための情報に変わります。その情報を元に仮説検証をおこない、事業の調整をするというプロセスを「何度も、高速で繰り返す」ことで、つねに進化し続ける事業を育てていくことができるのです。