ウェブサイト活用にユーザビリティの向上が重要なのは理解していますが、具体的にターゲットユーザの心理状況を理解するためには何をすればよいのでしょうか?
先のコラム (「ユーザビリティ」ってなに?) では、ターゲットユーザー象を明確にし、そのターゲットユーザーの行動を正しく想定することの大切さをお話させていただきました。
今回は、そのために必要な「行動観察」について、触れてみたいと思います。
ユーザーの「意見」はあてにならない
ターゲットユーザーがどんな人で、どんなことを考え、どんな行動をとるのか。これを知りたいと思ったとき、みなさんでしたらどうしますか?
恐らく多くの方は、ユーザー (顧客など) に実際に会って話を聞く、と考えるのではないでしょうか。実際に会って話を聞くことは、もちろんよいことです。ところが意外なことに、「意見」はあてにならないものであるということ、ご存知でしたでしょうか...?
たとえば、毎朝寝坊しがちで、「強力な目覚まし時計が欲しい」と思っている人がいたとしましょう。
その人は、強力な目覚まし時計を購入して、どうにか朝に起きれるようにはなりました。ところが起きたときの不快感 (疲れが取れず眠気も残る) は解消されません。不快感がこのまま消えずに蓄積されれば、いずれまた、早起きできなくなってしまうでしょう。
寝坊しがちな原因が、毎日何かと忙しく夜更かしが多いから、だとしたらどうでしょう。根本的な解決策は、その人が望んでいた「強力な目覚まし時計を買うこと」ではなく、生活習慣を見直して規則正しい睡眠時間を確保すること、かもしれませんね。
上記は「意見」を鵜呑みにすることの危険性を示す極端な例ですが、実際のビジネスシーンにおいてユーザーに意見を聞く (インタビューする) と、しばしば、こんな現象が見られます。
- 場の雰囲気に影響されて、自分の本音とは微妙に違ったことを言う。
- 要点を手短に、しかも自分なりのフィルターを通してサマリーしようとする。
つまり、ユーザーの意見は「嘘」ではないにしろ、かなり脚色された内容になってしまっている可能性が高いといえます。
デザイン (ウェブサイトの設計も含みます) は、使う人の課題を解決するためにあります。課題を解決するには、その根本原因を見つけて改善しなければなりません。そして、課題の根本原因を見つけるには、ユーザーの「意見」を鵜呑みにするだけでは不十分なのです。
IDEO の自動販売機の例
米国の有名なデザインコンサルタント会社「IDEO」が、地下鉄の駅にある自動販売機の売り上げをアップして欲しいと依頼されたときの面白いエピソードがあります。
普通、この手の依頼を受けたときの解決策としては:
- 自販機のデザインを、目立つように変える。
- 商品の品揃えを変える。
- 自販機を増やす。
...などが考えられるかと思いますが、最終的に IDEO が提案したのは、自販機の上に時計を置く、というものでした (実際、これによって自販機の売り上げが大きく伸びたそうです)。
この意外なソリューション、どのようにして導き出されたかというと、IDEO のスタッフが地下鉄の駅におこなって、自販機で買う人 (あるいは買わない人) の行動をとにかく、ただひたすら、観察し続けたのだそうです。そこで「地下鉄の駅を歩いている人はみんな、電車の待ち時間を気にしている」「自販機で買い物をする人は、買う直前に (果たして買った飲み物を飲んでいる暇があるか) 時間をチェックしている」という知見を得ることができ、「時間をチェックする時計と自販機をセットにして置いたら、購買行動を促すことがきるのでは?」という仮説を立ててやってみたら、見事に成功したというわけです。
ユーザビリティ評価でも、大事なのは行動観察
ユーザビリティの評価手法のひとつに、ユーザビリティテストというものがあります。ユーザー (あるいはユーザーに近い人) に、実際にウェブサイトやプロトタイプを操作してもらい、その様子を観察して、問題点を抽出するという評価法です。「ユーザーの意見を鵜呑みにしない」は、このユーザビリティテストにおいても基本セオリーになっています。
テスト中、ユーザーから「ここ、こうなっていたらいいのになあ」という意見が聞かれることもありますが、その意見が本質をついているとは限らないのは上述の通りです。もちろん、有益な知見をもたらしてくれる意見もあるので、参考として記録は取りますが、あくまでもユーザー行動の観察に注力し、ユーザーが戸惑う様子、勘違いする様子、誤操作する様子、迷走する様子、といったことに注意を払います。
行動観察を何度かやってみて、その結果から根本原因を推測し、改善につながる施策を打つこと。そしてこれを継続的に繰り返し行なうこと。行動観察は課題解決のためのデザインに欠かせないプロセスなのです。