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事業の取り組みを後押しする「情熱(パッション)」の大切さ

投稿日: | 投稿者:ayatori

1.理論武装しても超えられない、事業創造に立ちはだかる壁

この連載では、不確実な時代における事業創造の成功確率を高めるための考え方や手法を紹介してきました。ここで紹介してきた以外にもさまざまなツールが世にはあふれています。
10年前と比べると、そのようなツールを紹介する書籍やウェブ上のコンテンツはかなり増えています。しかし、そのような情報が増えたからといって、私たちを取り巻く課題を解決する、新しく使いやすいプロダクトやサービスが次々と生まれているわけではありません。英語学習に関する情報や教材が増えたからといって、日本人の英語力が大きく伸びているわけではないのと同じことです。

情報が増えているにもかかわらず、それと比例して成功確率が上がっていない理由はいろいろ考えられます。そのひとつが、今回のコラムで取り上げる「情熱(パッション)」です。
情熱を持つというと、なんだか青春ストーリーのようにも聞こえるかもしれません。しかし、情熱を持って事業に取り組むということは、言い換えれば、信念を持って事業に取り組むことを指しています。

これまで私が見てきた事業のなかには、資金の枯渇などといった経営面での原因ではなく、「情熱の枯渇」で失敗してしまったり知らない間になかったことになっていたりするケースがあります。これは、事業を創造するときに立ちはだかる大きな壁のひとつなのです。

2.事業開発を正しく進めることと情熱を持つことの両立の難しさ

事業を進めることの情熱が失われてしまう理由は何でしょうか。
不確実性とウェブマネジメントで紹介したように、事業を進める際には、わからないという状態から始め、わかるためにさまざまな観点からの仮説検証を何度も繰り返すというマインドセットを持つことが必要です。 実際にやってみるとわかりますが、仮説検証を何度も繰り返すことは簡単ではありません。なぜなら、仮説検証を繰り返すというのは、言い換えれば、繰り返した数だけの失敗に直面することになるからです。これは仮説検証の結果だからと言い聞かせても、たとえそれが小さなものであっても、失敗を何度も経験することは、実際には容易なことではありません。

顧客からの率直なフィードバックが必要なことはわかっていたとしても、時間と労力をかけてつくったプロダクトやサービス、オンラインコンテンツに対して寄せられる辛らつな声を前に、心が折れそうになることは当たり前の反応です。これは事業に対するコメントであって、自分に対する評価ではないと頭ではわかっていても、自分自身を否定された気持ちにもなるでしょう。

このように事業開発の取り組み方に忠実であればあるほど、情熱を持ち続けるということの大変さに気づくでしょう。

3.自分と周囲の情熱を保ち続けるために必要なもの

情熱を維持しながら事業開発に忠実に取り組んでいくには、どうすれば良いのでしょうか。

もちろん、事業開発の取り組み方を変えるべきではありません。情熱を維持するために、事業をより良くするための情報を得るルートを遮断してしまうのは本末転倒です。
考えなければならないのは、仮説検証を繰り返し、自分の事業案に対して率直なフィードバックを取り入れながらも、情熱を失わずに取り組みを続けるために必要なことは何かということです。

情熱というと、精神論・根性論のようなものを想像するかもしれません。しかし、個人の勉強や趣味のための情熱ならともかく、さまざまなステークホルダーを巻き込んで進める事業の取り組みにおいて、精神論や根性論では、自分のやる気を保てたとしても、周りに同じ想いを持ってもらうことはできません。
自分自身はもちろん、周囲を巻き込み続けるために必要な情熱を持ち、維持するために必要なもの、それは、事業を進めるにあたって自分が大事にするものを明確にすることです。

サイモン・シネックは、このことを有名なTEDのプレゼンテーションで「WHYから始めよ」と伝えています。
彼はプロダクトやサービス、あるいは政治活動などの例を挙げながら、ゴールデンサークルという図を使って、このWHYから始め、WHYを持ち続ける重要性を紹介しています。

サイモン・シネックのゴールデンサークルの説明はこうです。私たちが新しい取り組みについて考えたり、周囲に説明したりする際、通常は、円の外側から内側へという順序で考えてしまうというのです。つまり、何をつくり(WHAT)、それをどのようにつくるのか(HOW)というところから考えたり、説明を始めたりしてしまいます。

しかし彼は、人が行動を起こすときには「何(WHAT)」ではなく「なぜ(WHY)」に反応するといいます(詳しい理由はぜひ彼のプレゼンテーションを見てください)。

このWHYというのは、目的や信念です。なぜ、そのプロダクトやサービスを開発するのか。何のために、それをおこなうのか。その取り組みをおこなうことを突き動かす信念は何なのか。それがWHYの中身であり、それを明確にすることが大切だと伝えています。

 

4.自分の労力と時間を捧げる。しかし、冷静に

サイモン・シネック以外にも、多くの人が事業を進める上での目的や信念の大切さを主張しています。例えば、ピーター・F・ドラッカーは『Managing the Non-profit Organization』の第1章のタイトルを”The Commitment”として信念に関する話から始めています。

※ダイヤモンド社のドラッカー名著集に収められている本書の邦訳『非営利組織の経営』では、この第1章のタイトルに本文の意図を踏まえた「ミッション」という訳をあてている。

Commitmentとは、うまい日本語訳をつけるのが難しい単語ですが、英英辞典(Oxford Advanced Learner’s Dictionary 9th edition)には次のような定義があります。

  • the willingness to work hard and give your energy and time to a job or an activity
    (私訳:懸命に取り組んだり、仕事や取り組んでいることに自分の労力と時間を捧げようとする積極的な気持ち)

ドラッカーはこのコミットメントという言葉を使い、「何を大事に思うかを考えなければならない。(中略)私は、コミットメントなしに物事がうまくいったという例を知らない」と説いています。

事業に取り組むきっかけや、事業アイデアを思いつくきっかけはさまざまでしょう。時には自分の信念とは関係のないところから、事業案が舞い込んでくることもあるかもしれません。
どのような場合でも、自分がなぜ取り組むのか、何を大事に思い、この事業に取り組むのかを考えなければいけません。なぜなら、それこそが、何度失敗したとしても、事業を成功させるために自分の労力と時間を捧げることのきっかけ、言い換えれば、事業を続けることの情熱になるからです。

ただし、情熱を持つことと、冷静さを捨てることとは違います。いくら頑張って仮説検証を繰り返しても、時には検討していた事業案が目的達成には寄与しないことがあきらかになることがあります。
そのような時は、『「成果」をあげるための「成果物」の考え方』で紹介した成果と成果物の違いという基本に立ち戻り、成果がゆらぐことがないよう、冷静さをもって新しい成果物に取り組んでいくことが大切です。

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